オンライン商談の目線はカメラでなく、相手の顔をカメラの真下に置く
2026年9月22日

オンライン商談の目線とカメラについて調べると、「画面の相手ではなくカメラのレンズを見ると目が合う」「カメラは目の高さに」「レンズの前に鏡やアームで画面を出す機材がある」と並びます。どれも正しいです。ただ、視線がカメラから何度ずれるまで「目が合っている」と見えるのか、そしてずれる方向で違いがあるのかは書かれていません。この記事では、視線の知覚を測った研究と、Windowsの視線補正の公式仕様を引いて、レンズを見続けなくても済むウィンドウの置き方を提案します。効果は測っていません。一次情報から導ける範囲で書きます。
上位に書かれているのは「レンズを見ろ」と「カメラの高さ」
先に一般論です。カメラはたいてい画面の上枠に付いています。画面の中の相手の目を見ると、相手からは少し下を向いた顔に見えます。だからレンズを見ましょう、という話です。もう1つは高さで、カメラが目より下にあると見下ろす構図になり、顔が暗く、あごが強調されるので、目の高さまで上げましょう、という話です。
どちらも間違っていません。一般論はここまでで足ります。
詰まるのは、レンズを見ると相手が見えなくなること
1つ目は、レンズを見ている間、相手の表情が見えないことです。商談は相手の反応を見ながら進めるものなので、目を合わせるために反応を捨てる形になります。相手の反応が分からない、という記事で書いたとおり、動画で届く反応はもともと少ない。そこからさらに目を離すことになります。
2つ目は、画面が2枚あるときです。デスクで商談すると、ノートPCの横に外部モニターがあり、会議のウィンドウは大きいほうに出します。カメラはノートPCの上枠のまま。相手の顔とカメラは、縦だけでなく横にも離れます。
3つ目は、視線補正の機能に頼ってよいのか分からないことです。「カメラを見ていなくても目線を直してくれる」機能があるPCが増えましたが、どこまで直るのかが説明されていません。
目が合って見える範囲は狭い。ただし下方向には広い
ここからが一次情報です。人が「見られている」と感じる視線の範囲は、視線の円錐(gaze cone)と呼ばれて測られています。Gamer と Hecht の2007年の実験では、1mの距離で幅9°、5mで8°で、距離による有意な差はありませんでした(Linke & Horstmann 2024, Attention, Perception, & Psychophysics での引用。同論文は測り方によって幅がもっと狭く出ることも示しています)。角度で決まるので、近くても遠くても、ずれてよい角度は変わりません。
ここに方向の話が加わります。Milton Chen が CHI 2002 で発表した実験では、相手が自分の目より下を見ているときの感度は、左右や上を見ているときより1桁低い、と報告されています(Leveraging the Asymmetric Sensitivity of Eye Contact for Videoconferencing, Stanford)。同じずれでも、下向きなら目が合っているように見え、横向きや上向きならすぐに逸れて見える、ということです。
2024年の追試もあります。Gao らは、被験者17人に、4人の俳優がカメラから上下にずらした点を見た写真を見せ、「目が合っているか」を答えさせました。視距離は23インチ(約58cm)で、机のPCやノートPCを使うときの距離に合わせています。結果は、カメラの約2°下を見たときに「目が合っている」と最も答えられ、0°から3°の範囲で高い割合でした(Gao et al. 2024, arXiv:2404.17104)。同論文は先行研究のまとめとして、目が合う知覚が失われる境目をカメラの上4.5°、下5.5°としています。
つまり、レンズの真ん中を見る必要はありません。レンズの少し下を見ているほうが、目が合って見える。 逆に、横にずれると同じ角度でも逸れて見えます。

何cmずれると何度か。ノートPCとモニターで計算した
角度と実際の置き方をつなぎます。以下は三角関数の計算値で、測ったものではありません。画面の高さは16:9の対角から計算し、カメラは画面の上枠にあるとします。
14インチのノートPCは画面の高さが約17cmです。相手の顔が画面の中央にあると、カメラから約9cm下になります。目から画面まで50cmなら、視線はカメラから約10°下を向きます。上で見た「下5.5°」の境目を超えています。
同じノートPCで、相手のウィンドウを画面の上端に寄せ、顔がカメラの2cm下に来るようにすると、約2°下です。Gao らが「最も目が合って見える」と報告した角度そのものです。
27インチの外部モニターは画面の高さが約34cmです。ここに会議を全画面で出すと、相手の顔は画面中央、カメラから約17cm下。目から60cmなら約16°下です。さらに、ノートPCの横に置いたモニターに出していて、モニターの中心がカメラから30cm横にあれば、約27°横になります。下方向は寛容でも、横方向は1桁厳しいのが Chen の結果でした。
まとめると、こうなります。カメラのある画面で、相手の顔をカメラの真下、数cm以内に置く。会議のウィンドウを小さくして画面の上端に寄せれば、それだけで済みます。資料や自分のメモは、その下か、外部モニターに出します。相手の顔を外部モニターに出すのは、横にずれるので避けます。
視線補正は「下向き」だけを直す
3つ目の詰まりです。Windows 11 の Windows Studio Effects には「アイ コンタクト」があり、「標準」モデルは公式ドキュメントで「カメラから画面を見下ろしているデバイス ユーザーに対する微妙な補正です。目の左右の動きは調整されません」と説明されています(Microsoft Learn「Windows Studio Effects の概要」)。動作には Windows 11 バージョン22H2以降と、対応する NPU(AI処理用のチップ)を積んだ機種で、製造元が対応ドライバーを入れていることが必要です。カメラの段階で効果が掛かるので、オンにすればカメラを使うどのアプリでも既定で効きます。
つまり、直してくれるのは縦のずれだけです。これは上で見た研究と噛み合っています。縦のずれはもともと寛容で、機能も縦を直す。横のずれは厳しく、機能は横を直さない。相手の顔を横のモニターに出したまま視線補正を入れても、逸れて見えるのは変わりません。 補正に頼るなら、なおさら相手の顔はカメラのある画面に置く必要があります。
やること3つ
相手の顔は、カメラの真下に置く。 会議のウィンドウを小さくして、カメラのある画面の上端へ寄せます。顔がカメラから数cm下なら、視線は2〜3°下で、目が合って見える範囲に入ります。レンズを見続けなくてよいので、表情を見ながら話せます。
横のモニターには、相手の顔を出さない。 資料、自分のメモ、チャットは横に出してかまいません。相手の顔だけは横に置かない。横のずれは下のずれより1桁厳しく、視線補正も横は直しません。
レンズを見るのは、要所だけにする。 提案の一言、金額を言うとき、最後の確認。そのときだけレンズを見れば、残りの時間は相手の顔を見ていられます。ここは提案で、効果は測っていません。
最後に
私たちはMeetnect(ミートネクト)というオンライン商談ツールを作っています。ブラウザのタブで動くので、ウィンドウの大きさと位置は自由に変えられます。この記事に書いた「相手の顔をカメラの真下に小さく置く」は、私たちのツールでも、他のどのツールでも同じようにできることです。目線の問題はツールが解くのではなく、ウィンドウをどこに置くかで決まります。