オンライン商談の話す速度は「ゆっくり」でなく相手に合わせる
2026年9月22日

オンライン商談の話す速度を調べると、「対面より聞き取りにくいのでゆっくり」「アナウンサーの1分300字が目安」「強調の前に1〜3秒の間」と並びます。ただ、遅く話した声を聞いた側がどう受け取るかを測った結果は、どこにも書かれていません。この記事では、日本語の発話速度と印象を測った聴取実験を3本引いて、「ゆっくり」が何を失うか、基準をどこに置くかを書きます。私たちの製品の話はしません。提案の効果は測っていません。
上位に書かれているのは「ゆっくり」「1分300字」「間」
先に一般論です。オンラインは対面より聞き取りにくいので、ハキハキ、ゆっくり、大事なところは大きく。目安はアナウンサーの1分300字。段落の切れ目で間を取る。
どれも無難な助言です。一般論はここまでで足ります。
詰まるのは「ゆっくり」の基準が無いこと
1つ目は、自分の速さが分からないことです。「ゆっくり」は相対的な言葉で、いま何字で話しているか、どこまで落とせばよいかは、話している本人には測れません。
2つ目は、遅くすると時間が足りなくなることです。30分の枠で、説明を遅くすれば、質問と確認の時間が削れます。削れた分は相手の判断材料が減ります。
3つ目は、1分300字の出どころです。放送の読み上げの目安として広まっていますが、私たちはこの数字を定めた公式資料を見つけられませんでした。仮に放送の基準だとしても、原稿を読む速さと、相手と往復する会話の速さは別のものです。そして、どの記事も「遅く話された側が何を感じるか」に触れていません。ここが抜けたままだと、「ゆっくり」は安全策のようでいて、何かを失っている可能性があります。
遅い声は「勤勉でない」「暗い」と受け取られる
ここからが一次情報です。大学入試センターの内田照久は、同じ発話の速度だけを機械的に変えた音声を大学生に聞かせ、話し手の性格をどう感じるかを測る実験を重ねています。
2002年の実験では、日本語話者4人と英語話者4人の発話を複数の速度に変換し、大学生376人が Big Five(性格を5つの軸で見る尺度)の短縮版で評価しました。結果は、速度と印象の関係が直線ではなく2次関数で近似できる、つまり「速いほど良い」でも「遅いほど良い」でもなく、特性ごとに山や谷がある形でした(内田 2002, 心理学研究 73(2))。
2005年の実験では、段落の長さの音声で、発話部分の速さと休止(間)の長さを別々に変え、大学生581人が評価しました。結果はこうです。勤勉性(まじめ・きちんとしている)は速い発話で高く、遅くすると急に下がる。 協調性は逆で、速いと低く、遅いと高い。外向性と開放性は「やや速い」で最も高く、両端で下がる。そして「自然なわかりやすさ」は元の速さで最も高く、速くしても遅くしても下がる。休止の長さの影響は、発話部分の速さに比べて小さいものでした(内田 2005, 教育心理学研究 53(1))。
つまり、「ゆっくり話すと分かりやすい」は、この実験では支持されていません。分かりやすさは元の速さが最高で、遅くした分だけ「まじめでない」に寄ります。 得られるのは協調性、つまり「やさしそう」の印象です。商談で買っているのがどちらかは、商材によります。
基準は自分の速さでなく、相手の速さ
もう1本、基準をどこに置くかに答える実験があります。東京電機大学の本木と日根は、聞き手自身の話す速さを先に録音して測り、その速さと同じ・20%速い・25%遅い、の3種類の相手と通話する課題を28人(男性26人・女性2人・平均20.9歳)に行わせ、相手の印象を7段階で評価させました。相手の絶対的な速さの影響を統計的に除いたうえで、聞き手より遅い相手は「暗い」と評価され(F(1,83)=7.16, p<.01)、「慎重な」は遅い相手で高い(F(1,83)=13.69, p<.01)という結果でした(本木・日根 2018, 日本認知科学会第35回大会)。
終了後の口頭質問では、速い相手と遅い相手には「話しにくい」という答えが多く、同じ速さの相手には「特に何もない」「覚えていない」が多かったと報告されています。著者らは、同じ速さの相手は印象に残らないぶん、不快な印象も残らないので、結果として印象が良いのではないかと考察しています。
ここから言えるのは、「ゆっくり」の基準は自分ではなく相手だということです。相手より遅ければ暗く見え、速ければ話しにくい。同じなら何も残らない。オンラインで「対面よりゆっくり」を一律に足すと、もともと速く話す相手には、ただ暗く映ります。

電話営業で速くしたら、遮られにくくなった例
商談そのものでの測定は、研究では見つかりませんでした。代わりに、営業会社が自社の電話営業で試した例があります。セレブリックスは、450字のトークスクリプトを1分07秒で話していたものを57秒に縮め、医療機関への架電で6人が3営業日ぶんを比べています。結果は、有効商談率が51.4%(35件中18件)から74.0%(27件中20件)に上がり、途中で遮られる件数は速いほど減る傾向だった、と報告されています(セレブリックス「話す速さを変えたらNGの確率は変化する?」)。
件数が少なく、電話であってオンライン商談ではなく、同社の1回の検証です。一般化はできません。ただ、「速くしたら断られた」ではなく「速くしたら遮られなかった」という向きは、上の実験の「遅いと暗い・勤勉でない」と矛盾していません。
やること3つ
最初の1分で、相手の速さを聞く。 挨拶と自己紹介の往復で、相手が速いか遅いかは分かります。それに自分を寄せます。相手より遅くしない。これが基準です。アイスブレイクの記事で書いたとおり、オンラインは返事までの間がもともと長く乗るので、速さまで落とすと、遅れが二重になります。
落とすのは、数字・固有名詞・条件のところだけ。 全体を遅くするのではなく、金額、期日、社名、前提条件を言うときだけ速度を落とし、言い終えたら元に戻します。内田の実験で「わかりやすさ」が最高だったのは元の速さです。全体を落とす理由はありません。
自分の速さを一度、録音で知る。 1分間の自己紹介を録って文字数を数えれば、自分の基準値が分かります。相手に合わせるには、自分がどこにいるかを先に知る必要があります。
3つとも提案で、効果は測っていません。実験は大学生の聴取と通話課題で、商談の場ではありません。
最後に
私たちはMeetnect(ミートネクト)というオンライン商談ツールを作っています。話す速さは、どのツールを使っても人が決めることです。この記事に書いた「相手に合わせる」「落とすのは数字と条件だけ」は、私たちのツールでも、他のどのツールでも同じようにできます。ツールが解くのは音が届くかどうかまでで、届いた声がどう受け取られるかは、話し方で決まります。