オンライン商談の照明は、安いライトで足りるのか
2026年9月23日

オンライン商談で顔を明るく映したい、と思って照明を調べると、「最低500ルーメン以上」「700〜800ルーメンがおすすめ」という数字が並びます。値段は数千円から一万円台まであって、どこまで出せばいいのか決まりません。
この記事は、その数字が何を保証しているのかを単位の定義から確かめた記録です。結論から書くと、ルーメンという数字だけでは、顔がどれだけ明るくなるかは決まりません。 同じ800ルーメンでも、置く距離と光の広がり方で、顔に届く明るさは計算上130倍以上変わります。だから「何ルーメンを買うか」より先に決めるものがあります。
「500ルーメン以上」は、何を保証している数字か
検索して上位に出てくる9件は、ほぼすべてがリングライトの製品紹介でした。2件を開いて確かめています。
1件は明るさの推奨値を出しておらず、色温度の切り替え機能の説明が中心でした(サンワダイレクト)。もう1件は「リングライトの最大光量は最低でも500ルーメン以上を選ぶことをおすすめします」「700〜800ルーメンが多いため、後悔したくない方は安さを求めずに」と数字を出しています(FreshVoice)。
後者は顔からライトまでの距離を50cm〜100cmとも書いています。ただ、距離が変わると顔に届く明るさがどう変わるかは書かれていません。 2件とも出典URLはありませんでした。
ここが引っかかりました。距離を書いているのに、距離と明るさの関係を書いていない。この2つは、単位の定義の上ではつながっています。
ルーメンは光源が出す総量、ルクスは届いた面の明るさ
日本では、光の単位が法令で定義されています。計量単位令の別表第一に、こう書かれています(e-Gov 計量単位令)。
| 量 | 単位 | 定義(条文) |
|---|---|---|
| 光束 | ルーメン | 一カンデラの光源から一ステラジアン内に放射される光束 |
| 照度 | ルクス | 一平方メートルの面が一ルーメンの光束で照らされるときの照度 |
読み替えると、ルーメンは「光源から出ていく光の総量」、ルクスは「ある面に届いた光の密度」です。1ルクスは、1平方メートルの面に1ルーメンが当たっている状態です。
つまりルーメンをルクスに変えるには、その光がどれだけの面積に広がって届くかが要ります。製品の箱に書いてあるのはルーメンだけなので、それだけでは顔に届く明るさは出せません。「500ルーメン以上」という目安は、置き方の条件を省いた数字です。
同じ800ルーメンが、広がり方と距離で130倍変わる
広がり方と距離を入れて計算してみます。以下はすべて計算値です。ライトを点とみなし、光が決まった角度の中に均等に出ると置いています。実際の製品の配光はこの通りではありません。
計算は2段です。まず光束(ルーメン)を立体角で割って光度(カンデラ)を出し、次に距離の2乗で割って照度(ルクス)を出します。800ルーメンのライトでの結果です。
| 光の広がり | 立体角 | 光度 | 0.5m | 1m | 1.5m |
|---|---|---|---|---|---|
| 60度に絞る | 0.84sr | 950cd | 約3,800lx | 950lx | 422lx |
| 120度 | 3.14sr | 255cd | 1,018lx | 255lx | 113lx |
| 半球(180度) | 6.28sr | 127cd | 509lx | 127lx | 57lx |
| 全方向 | 12.57sr | 64cd | 255lx | 64lx | 28lx |

いちばん上といちばん下で、同じ800ルーメンが約136倍違います。 距離だけで見ても、0.5mと1.5mでは9分の1です。光は距離の2乗で薄まるので、距離が2倍になると4分の1になります。
「全方向」の行は比較のために置いた極端な条件です。裸電球に近く、リングライトはここまで広がりません。それでも、同じ数字のライトが置き方だけでこれだけ動くことは変わりません。
ひとつ正直に書いておくと、0.5mという距離は、リングライトの直径と同じくらいです。 点とみなす計算はこの近さでは誤差が大きくなり、実際の落ち方はこの表より緩やかになります。表は「距離と広がりで桁が動く」ことを見るためのもので、製品の性能を予測するものではありません。
法令が決めているのは、机の上の明るさ
ではルクスの数字はいくつを目標にすればいいか。日本には、事業者が守る基準として法令に書かれた数字があります。事務所衛生基準規則の第十条です(e-Gov 事務所衛生基準規則)。
第1項は、室の作業面の照度をこの表に適合させなければならない、としています。
| 作業の区分 | 基準 |
|---|---|
| 一般的な事務作業 | 三百ルクス以上 |
| 付随的な事務作業 | 百五十ルクス以上 |
パソコンを使う作業については、厚生労働省の通達にも数字があります。「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」は、令和3年12月1日施行の一部改正で「ディスプレイを用いる場合の書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とし、作業しやすい照度とすること」となりました(厚生労働省の通達)。
ここで気づくことがあります。どちらも測る面は、作業面・書類の上・キーボードの上です。顔の明るさを決めた数字は、ここにはありません。
顔は垂直に立っている面です。天井の照明から降ってくる光は、机には正面から当たりますが、顔にはほとんど横から当たります。机の上で300ルクス出ていても、顔がそれと同じということにはなりません。300ルクスは、顔の基準として借りてきた数字です。 この記事でも目安として使いますが、根拠ではありません。
もう一点。条文は「事業者は」で始まります。これは事業者が事務所について守る規則で、自宅の一室に同じ数字を義務づけるものではありません。厚生労働省は自宅でテレワークをする際の作業環境のチェックリストも出していますが、PDF形式で、この記事を書いた環境では中身を読めませんでした。自宅について同じ300ルクスが書かれているかどうかは、確かめていません。
明るくすればいい、ではない
同じ第十条には、第2項と第3項があります。
> 事業者は、室の採光及び照明については、明暗の対照が著しくなく、かつ、まぶしさを生じさせない方法によらなければならない。
前半の「明暗の対照」は、窓を背にしたときに起きることそのものです。カメラは画面全体で露出を決めるので、背景が明るすぎると顔が沈みます。この話はWeb会議で顔が暗くなる理由に書きました。
後半の「まぶしさ」は、ライトを買った後に自分で作りがちなほうです。さきほどの表で、60度に絞ったライトを0.5mに置くと、計算上は約3,800ルクスでした。一般的な事務作業の基準300ルクスの12倍を超えます。 条文が避けるように書いているほうの状態です。実際に目が痛くなる明るさかどうかは測っていませんが、数字の桁としては、そういう領域に入っています。
第3項もあります。
> 事業者は、室の照明設備について、六月以内ごとに一回、定期に、点検しなければならない。
照明は放っておくと落ちる、という前提で書かれています。買ったときに足りていたから、ずっと足りているとは限りません。
買う前に決めるのは、ルーメンではなく置く距離
ここまでを踏まえると、順番が変わります。以下は数字から組み立てた進め方で、どれも効果を測ってはいません。
1. 先に置き場所を決める。 机の上、顔から50cmの位置に何か置けるのか。ディスプレイの上に載せるのか。天井から当てるのか。0.5mと1.5mでは9倍違うので、ここが決まらないとルーメンの数字は選べません。近くに置けるなら、小さいライトで届きます。
2. カタログではルーメンと配光角の2つを見る。 配光角(ビーム角)が書かれていない製品は、ルーメンだけでは顔に届く明るさが出せません。両方書いてある製品を選ぶと、上の計算がそのまま使えます。
3. 顔に直接向けない。 白い壁や天井に当てて返すと、光が広い面から来るので影が柔らかくなり、まぶしさも減ります。ルクスは下がるので、その分ライトを近づけるか出力を上げます。
4. 買う前に、いまの部屋だけで足りているか見る。 窓を背にしていないか、天井の照明が背中側にないか。照明を足す前に、位置で直る部分があります。 確かめる順番はWeb会議で顔が暗くなる理由にまとめました。
「安いライトで足りるか」への答えは、置ける距離しだいです。 50cmに置けるなら、500ルーメンでも300ルクスは超えます。1.5m離すなら、同じライトでは届きません。値段ではなく距離が決めています。
Meetnectの場合
Meetnectにも映像の明るさを持ち上げる機能はありますが、これは届いた映像を描き直しているだけで、もともと当たっていない光を作ることはできません。 照明を足すのと補正を掛けるのは別のことで、順番としては光が先です。補正が何をしていて何をしていないかは、Web会議で顔が暗くなる理由に書きました。