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オンライン商談でBGMを流すとき、著作権の許諾だけでは足りない

2026年10月10日

オフィスの机に置かれたノートPCから音符が3つ浮かび上がっている。その隣に白い箱が2段に積まれ、上の箱には青い鍵が差し込まれているが、下の箱には鍵穴が開いたままで鍵がない。手前にCDが1枚、右に金色の天秤が置かれている
オフィスの机に置かれたノートPCから音符が3つ浮かび上がっている。その隣に白い箱が2段に積まれ、上の箱には青い鍵が差し込まれているが、下の箱には鍵穴が開いたままで鍵がない。手前にCDが1枚、右に金色の天秤が置かれている

商談の開始を待つあいだ、無音が気まずいのでBGMを流したい。調べると出てくるのは店舗向けの解説ばかりで、JASRACに手続きをすれば済むように読めます。条文と公式の資料を当たると、話は2つに分かれていました。ひとつは、その音を流す行為がオンラインだと別の条文に移ること。もうひとつは、曲と音源で権利が2階建てになっていて、JASRACが扱っているのは上の階だけだということです。 確かめた文面をそのまま載せます。

この記事の内容
  1. 上位は全部「お店で流すとき」の話
  2. 条文では、CDを再生することも「演奏」に入る
  3. 権利は2階建てで、JASRACが見ているのは片方だけ
  4. 商談のサイズに合う手続きが用意されていない
  5. お店で使っている業務用BGMは、そのまま持ち込めない
  6. 確かめられなかったこと
  7. 商談の前に決めておく3つ
  8. Meetnectの場合
  9. 参考

上位は全部「お店で流すとき」の話

この言葉で検索すると、並ぶのは有線放送の会社、美容サロン向けの解説、飲食店の注意喚起、弁護士事務所の記事です。前提はどれも店舗の中で継続的に流す場面で、書いてあることは正確です。

オンラインの会議を扱った記事も1件ありました。ただ、そこで論じられているのは「公衆」に当たるかどうかと公衆送信の話で、演奏の権利と著作隣接権には触れていません。 公衆の定義とオンラインの送信については画面共有と著作権の記事に書いたので、ここでは書き直しません。この記事は、音楽にだけ付いてくる2つの話を書きます。

条文では、CDを再生することも「演奏」に入る

まず、音楽を鳴らす行為そのものです。著作権法22条はこうなっています。

> 著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。

「演奏」と書かれていますが、生演奏だけの話ではありません。2条7項に定義があります。

> この法律において、「上演」、「演奏」又は「口述」には、著作物の上演、演奏又は口述で録音され、又は録画されたものを再生すること(公衆送信又は上映に該当するものを除く。)及び著作物の上演、演奏又は口述を電気通信設備を用いて伝達すること(公衆送信に該当するものを除く。)を含むものとする。

録音されたものを再生することが、演奏に含まれています(e-Gov 法令検索・著作権法2条)。CDを再生するのも、プレイヤーで曲を流すのも、条文の上では演奏です。

そして括弧書きがあります。「公衆送信又は上映に該当するものを除く」。 同じ曲を同じように鳴らしていても、それがオンラインの通話に乗った時点で、演奏の枠から外れて別の条文の話になります。会議室のスピーカーで流すのとオンライン商談で流すのは、見るべき条文が違います。 非営利・無料の例外(38条1項)に演奏が入っていて公衆送信が入っていないことは、前の記事に書きました。

権利は2階建てで、JASRACが見ているのは片方だけ

ここからが音楽に固有の話です。JASRACの公式ページには、インターネットでの音楽利用についてこう書かれています。

> 市販のCDやダウンロードした音源などを利用する場合、著作権とは別に、著作隣接権(音源製作者やアーティストの権利)の許諾を得る必要があります。音源製作者(レコード会社等)へ直接お問い合わせください。

(JASRAC・インターネット上での音楽利用)

曲そのものの権利と、その曲を録音した音源の権利が、別に立っています。 条文でも並んでいます。

> レコード製作者は、そのレコードを複製する権利を専有する。(96条)

> レコード製作者は、そのレコードを送信可能化する権利を専有する。(96条の2)

> 実演家は、その実演を送信可能化する権利を専有する。(92条の2)

(同・96条、96条の2、92条の2)

1曲流すのに、作詞作曲側とレコード会社側と演奏した人の側があり、聞く相手に届ける段でそれぞれに別の条文が当たります。 JASRACに手続きをしたから終わり、という形にはなっていません。公式がそう書いています。

左右に分かれた図。左は部屋の中のスピーカーから音符が流れ、緑の円いラグの上に立った3人がその場で聞いている。右はレンガの壁を越えて青い矢印が音符を1つ運んでいき、その先には誰も座っていない椅子と机とモニターがあり、机の上に段ボール箱が2つと金色の鍵が置かれている
左右に分かれた図。左は部屋の中のスピーカーから音符が流れ、緑の円いラグの上に立った3人がその場で聞いている。右はレンガの壁を越えて青い矢印が音符を1つ運んでいき、その先には誰も座っていない椅子と机とモニターがあり、机の上に段ボール箱が2つと金色の鍵が置かれている

商談のサイズに合う手続きが用意されていない

では、手続きをすればいいのか。JASRACのBGM申請のページを読むと、対象はこうなっています。

> 施設において継続的にBGM(背景音楽)をご利用になる場合

対象外も列挙されています。「イベントなどにおける1日や数日間のBGM利用」「お店などの施設における期間限定(月単位)のBGM利用」、それに「モニター、スクリーンを用いた映像を伴う利用」「商品や企業などの広告を目的とした利用」(JASRAC・BGMオンライン申請)。

商談は、施設でも継続でもありません。1回きりで、商品の紹介が目的です。どの箱にも入りません。 インターネット側のページも区分は「動画配信」と「動画以外の配信」で、閉じた1回の通話という項目は見つかりませんでした。上位の記事が店舗の話しかしていないのは、手続きの側も店舗を前提に組まれているからです。

お店で使っている業務用BGMは、そのまま持ち込めない

いま店舗で業務用のBGMサービスを契約しているなら、それを商談でも流せそうに思えます。提供している側の説明はこうです。

> 業務利用向けにサービス提供しているサブスクリプション型BGMサービスであっても、店内BGMの利用範囲を超えたオンライン配信などでの利用は認められていません。

> 一般的な業務用BGMサービスは、基本的に店内空間でのみ再生することに限り利用が認められているサービスとなります。

同じページには「※OTORAKUはオンライン配信ではご利用いただけません。」とも書かれています(OTORAKU・BGMの著作権)。使う範囲を外しているのは、売っている側です。

個人向けのサブスクも同じ向きです。Spotifyの利用規約は、許可の範囲を「個人利用および非商業利用」と書き、「お客様は、Spotify サービスまたは本コンテンツを再配布、販売または転送しないことに同意します」と続けています(Spotify 利用規約)。

手元にある供給元は、だいたいこの3つです。個人向けサブスク、業務用BGM、市販のCD。3つとも、商談という形から外れたところに線が引かれています。

確かめられなかったこと

商談の前に決めておく3つ

  1. 既定を「流さない」にする。 待ち時間の気まずさは、音ではなく話で埋まります。開始前に流す決まりを作ると、担当者ごとに判断がばらつきます
  2. 使う音源の規約を、商談という形で読む。 「店内」「個人」「配信」のどれに当たるのかを、契約しているサービスの文面で確かめます。「フリー」の語だけで決めないほうが安全です
  3. 流すと決めたなら、記録と併せて考える。 鳴らした音が残ると複製の話が足されます。この分かれ方は画面共有と著作権の記事に書きました

Meetnectの場合

Meetnectには、音楽を流す口がそもそもありません。画面共有は映像だけを要求していて(public/room.html:1825)、音の入口はマイク1本です。そのマイクにはエコー除去とノイズ抑制が常に掛かっていて、会話以外の音は削られる向きに働きます。この中身は共有した動画の音が途切れる理由に書いたとおりです。流していいかを確かめる仕組みは入れていません。 その前に、送る道がありません。

参考

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