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業務委託の口頭発注と書面の義務|商談で決めた日から動き出す

2026年10月11日

机の上のノートパソコンの画面に握手が映っていて、そこからオレンジ色の矢印が右へ伸び、置かれた一枚の書類を指している。書類の奥には数字のない丸い置き時計がある
机の上のノートパソコンの画面に握手が映っていて、そこからオレンジ色の矢印が右へ伸び、置かれた一枚の書類を指している。書類の奥には数字のない丸い置き時計がある

オンライン商談の終わりに「では、その内容でお願いします」と言われる。それだけで契約は成立します。ただ、成立したかどうかとは別に、決めた内容を書面か電磁的方法で明示する義務が、発注した側に課されることがあります。この記事は、その義務がどの条文に書かれていて、いつから数え始めるのかを確かめたものです。2026年1月に条文の番号が動いたので、検索で出てくる解説と現在の条文はずれています。

先に断っておくと、私たちは弁護士でも行政書士でもありません。ここに書くのは条文と、公正取引委員会が公開しているページに書いてあることだけです。自社の取引がどちらに当たるかは、顧問の専門家に確かめてください。

この記事の内容
  1. 上位が答えているのは「口頭でも発注できる。ただし書面は出す」
  2. 「3条書面」と呼ばれている条文は、2026年1月に第4条へ移った
  3. 電磁的方法で明示したあと、書面を求められたら交付する義務がある
  4. 罰金の名宛人は、会社ではなく「違反行為をした従業者」
  5. 資本金の線で外れても、相手が一人なら明示の義務は残る
  6. 動き出すのは「合意した日」から。着手日ではない
  7. うちの議事録には、明示する8項目の欄が無い

上位が答えているのは「口頭でも発注できる。ただし書面は出す」

「業務委託 口頭 発注 書面 義務」で検索すると、上位は会計ソフトの会社と法律事務所の解説で埋まります。中身はおおむね揃っていて、要点は3つです。口頭でも契約は成立する。ただし下請法(現在の取適法)の対象になる取引なら、発注内容を書いたものを直ちに交付しなければならない。交付しないと罰金がある(例1・例2・例3)。

書いてあることは正しいです。口頭でも契約が成立することは民法の条文のほうに書いてあり、これは別の記事で扱いました(オンライン商談のクロージングの言い方)。

ただ、上位の記事はどれも「3条書面」という名前でこの義務を説明します。 本文まで当たった2本(上の例1・例2)には、電磁的方法で明示したあとに書面を求められたときの話も、資本金の線から外れたときに残るものの話も出てきませんでした。この記事はその2つを足します。

「3条書面」と呼ばれている条文は、2026年1月に第4条へ移った

下請法は2026年1月1日に名前が変わりました。正式な題名は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、略称が取適法です。改正を入れた条文はe-Govで読めます(令和7年5月23日法律第41号による改正・令和8年1月1日施行)。

変わったのは名前だけではありません。明示の義務は第3条ではなく第4条に置かれています。 第3条は代金の支払期日を定める義務になりました。公正取引委員会も、委託する側の義務を並べたページで「発注内容等の明示義務」を第4条として説明しています(委託事業者の義務・公正取引委員会)。

条文はこうです。

> 委託事業者は、中小受託事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより、中小受託事業者の給付の内容、製造委託等代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を、書面又は電磁的方法(電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものをいう。以下この条において同じ。)により中小受託事業者に対し明示しなければならない。

(同法第4条第1項)

書面と電磁的方法が並んで書かれています。現在の条文に「承諾」という語はありません。法律の全文を検索しても出てきません。メールで送ること自体は、相手の同意を待たずにできます。

電磁的方法で明示したあと、書面を求められたら交付する義務がある

代わりに付いたのが第2項です。ここが上位の記事に出てきません。

> 委託事業者は、前項の規定により同項に規定する事項を電磁的方法により明示した場合において、中小受託事業者から当該事項を記載した書面の交付を求められたときは、遅滞なく、公正取引委員会規則で定めるところにより、これを交付しなければならない。ただし、中小受託事業者の保護に支障を生ずることがない場合として公正取引委員会規則で定める場合は、この限りでない。

(同法第4条第2項)

左のノートパソコンから緑色の矢印が伸び、封筒を運んで右の席へ届いている。受け取った人は何も書かれていない紙を一枚持ち上げて見せていて、手前の机には空の書類トレイが置かれている
左のノートパソコンから緑色の矢印が伸び、封筒を運んで右の席へ届いている。受け取った人は何も書かれていない紙を一枚持ち上げて見せていて、手前の机には空の書類トレイが置かれている

メールやチャットで明示したあとでも、相手が「紙でください」と言ったら交付する義務が残ります。 商談の相手が受け取る側になる取引では、ここが実務の分かれ目になります。社内の運用を「全部メールで送るから紙は無し」と決めてしまうと、求められた時点で用意する手がありません。

罰金の名宛人は、会社ではなく「違反行為をした従業者」

罰則の条文も読んでおきます。第14条の柱書きはこうです。

> 次の各号のいずれかに該当する場合には、その違反行為をした委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者は、五十万円以下の罰金に処する。

該当する号が2つあります。「第四条第一項の規定に違反して明示すべき事項を明示しなかつたとき。」と、「第四条第二項の規定に違反して書面を交付しなかつたとき。」です。つまり書面を求められて出さなかったことにも、明示しなかったことと同じ罰金が付いています。 さらに第16条で、行為者を罰するほか法人にも同じ刑を科すと書かれています。

読んで引っかかるのは名宛人です。条文は会社ではなく「その違反行為をした委託事業者の代表者、代理人、使用人その他の従業者」と書いています。商談の席で金額を決めたのが担当者なら、明示を落としたのもその担当者です。社内の決まりとして整えるかどうかは、そこに効いてきます。

資本金の線で外れても、相手が一人なら明示の義務は残る

取適法の対象になるかは、委託する側と受ける側の規模の組合せで決まります。条文は資本金の額(三億円・五千万円・千万円)に加えて、「常時使用する従業員の数」(三百人・百人)でも線を引いています(同法第2条第8項・第9項)。ここを見て「うちは資本金が小さいから対象外」と判断する会社があります。

対象外でも、もう1つ残ります。相手が従業員を使わない個人、または代表者ひとりだけの法人なら、フリーランス法のほうの明示義務が立ちます(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律 第3条第1項)。条文の構造が取適法と違うので、そこだけ取り出します。

つまり、一人で仕事をしている側が一人に発注した場合でも、明示の義務だけは立ちます。 支払期日や禁止行為の条文は、従業員を使う規模から先です。条文がそう書き分けています。

明示する項目は、公正取引委員会のQ&Aに8つ並んでいます(Q&A Q35・公正取引委員会)。①双方の名称、②業務委託をした日、③給付・役務の内容、④給付・役務提供の期日、⑤給付・役務提供の場所、⑥報酬の額及び支払期日、⑦検査をする場合は検査完了日、⑧現金以外で支払う場合の支払方法。こちらにも第2項があり、電磁的方法で明示したあと書面を求められたら遅滞なく交付する形は同じです。

動き出すのは「合意した日」から。着手日ではない

どちらの条文も「直ちに」と書いています。では何から数えるのか。公正取引委員会のQ&AのQ37が、フリーランス法の明示についてこう答えています。

> 「業務委託をした日」とは、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、業務委託をすることについて合意した日をいいます。合意は、契約書による必要はなく、口頭でも構いませんが、トラブル防止の観点から、記録に残る方法によることが望まれます。また、「業務委託をした日」とは別に、業務委託事業者と特定受託事業者との間で、特定受託事業者が業務に着手する日を定めることがありますが、「業務委託をした日」とは、あくまでも業務委託をすることについて合意した日をいいます。

(同Q&A Q37)

起点は、商談で「お願いします」と言われた日です。 契約書を作った日でも、相手が作業を始める日でもありません。着手日を別に決めることがあるとわざわざ書いてあるのは、そこを起点にする誤りが実際にあるからでしょう。

オンライン商談で効いてくるのは、合意が口頭で済んでしまうことです。対面なら、その場で紙を出すか、持ち帰って郵送するかを体が覚えています。画面を閉じたあとは何も残りません。合意した日だけが過ぎていきます。

うちの議事録には、明示する8項目の欄が無い

私たちはMeetnect(ミートネクト)というオンライン商談ツールを作っています。この記事の義務に対して、うちのデータベースが何を持っていて何を持っていないかを書きます。

商談が終わると議事録が出ます。標準の見出しは4つで、概要・決定事項・ToDo(分かれば担当・期限も)・要点と論点です(src/worker.js:1598)。上の8項目と重ねると、埋まるのは③の内容に近いものだけです。商談のテーブルに金額の列も支払期日の列も作っていません(schema.sql を検索して、商談側のテーブルに金額や支払に当たる列名は0件でした)。持っているのは取引先名と、保存先のリンクと、時刻です。

時刻の列は3つあります。ルームを作った時刻(created_at)、予約した開始時刻(scheduled_at)、最後に接続人数を書いた時刻(live_at)。どれも「合意した時刻」ではありません。 近いのは3つ目ですが、それは線がつながっていた記録であって、何かが決まった記録ではありません。だから起点を機械に判定させることはできません。できるのは、話した内容が終了時点で文章になって残ることと、その文章に日付が付いていることです。

明示の様式を作る機能は足していません。足すと、うちが「この商談は業務委託に当たる」と判定することになります。判定を間違えたときに困るのは使う側で、こちらは画面の外にいます。そこは人が決めて、人の名前で出すものだと考えました。

確かめられなかったこと


Meetnect(meetnect.com)では、商談が終わった時点で議事録ができています。お礼メールに貼るのは、その中の決定事項とToDoだけです(商談後のお礼メールに議事録をどう添えるか)。この記事の義務から見ると、そのメールは「明示」そのものではありません。 ただ、何をいつ合意したかが文章と日付で残っていれば、明示を出すときに書き写す元になります。起点を思い出すより、起点が残っているほうが早いはずです。

商談しながら、議事録ができています

Meetnect はブラウザだけで動くオンライン商談ツールです。相手は登録不要、URLを開くだけ。通話中に文字起こしが進み、終わった時点で「誰が何を言ったか」まで残った議事録ができています。7日間、カード登録なしで試せます。