商談の議事録は誰が書くか
2026年9月24日

商談が終わったあと、議事録を誰が書くか。出席した営業本人なのか、同席した若手なのか、そもそも人が書くのか。社内で一度は話題になる問いだと思います。
この記事は、担当を決める前に確かめておくことが1つあるという話です。個人情報保護法の条文と、個人情報保護委員会が公開しているQ&Aを実際に引いて確かめました。読むと、議事録が「個人データ」として扱われるのはどの時点からかと、文字起こしを外のサービスに通すと何が変わるかが、条文の言葉で分かります。
先に断っておくと、私たちは弁護士ではありません。ここに書くのは条文とQ&Aに書いてあることだけで、個別の判断は専門家に確かめてください。
上位に並ぶ答えは「主催者・営業本人・若手」
「商談 議事録 誰が書く」で検索すると、上位は議事録の書き方とフォーマットの記事で埋まっています。担当者についての答えも一応あって、会議の主催者か、事務担当か、商談に出た営業本人。そこに「人材育成の観点から若手に任せることも少なくない」が添えられる形です。
書いてあることに間違いはありません。若手が書けば商談の進め方を覚える、というのもそのとおりだと思います。
ただ、上位のどれも「書いた議事録がどこを通るか」には触れていません。 誰に書かせるかの話が、最初から最後まで社内の役割分担の話で終わっています。議事録に何を書くかは商談の議事録に何を書くかに書きましたが、今回は書く前の話です。
人の名前を決めても、文字を作っているのが誰かは別
いまの商談では、議事録の下書きを人が打っていないことがあります。録音を文字起こしして要約するサービスに通し、出てきたものを担当者が直す。この形だと、「誰が書くか」の答えが社内の担当者の名前でも、文字を最初に作っているのは社外のサービスです。
ここが実務で詰まるところです。社内の誰が担当かをいくら丁寧に決めても、商談の中身が社外のサーバーを通ったかどうかは、担当の決め方では変わりません。
そして法律の側が線を引いているのは、後者のほうです。
議事録1本と、溜めた議事録では条文が変わる
商談の議事録には、相手の氏名と会社名が入ります。これは個人情報です。ここまでは迷いません。
迷うのはその先で、個人情報保護法の義務の多くは「個人情報」ではなく「個人データ」に掛かっています。 定義は第十六条第三項です。
> この章において「個人データ」とは、個人情報データベース等を構成する個人情報をいう。
では「個人情報データベース等」とは何か。第十六条第一項にあります。
> 個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるもの(利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定めるものを除く。)をいう。 > 一 特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
(個人情報の保護に関する法律 第十六条)
「体系的に構成したもの」です。置き場所の話ではなく、並べ方の話だと読めます。議事録のテキストを1本だけデスクトップに置いた状態と、取引先名や担当者名で引けるように整理して溜めた状態とでは、同じファイルでも当てはまる条文が変わりうる、ということです。
商談の記録は普通、溜まります。溜めて後から引くために書いているわけで、引き継ぎのときに読み返すのも保存先を決めておくのも、そのためです。「議事録を書く」と決めた時点で、多くの場合そこへ向かっています。

なお、ある状態が「体系的に構成したもの」に当たるかどうかを、私たちがここで判定することはできません。条文の言葉を置くところまでです。
外のサービスを使うときの線は「取り扱うことになっているか」
文字起こしや要約のサービスに商談の中身を渡すと、それは第三者への提供になるのか。個人情報保護委員会のQ&Aに、まさにこの形の問いがあります。Q7-53です。
> クラウドサービスの利用が、本人の同意が必要な第三者提供(法第27条第1項)又は委託(法第27条第5項第1号)に該当するかどうかは、保存している電子データに個人データが含まれているかどうかではなく、クラウドサービスを提供する事業者において個人データを取り扱うこととなっているのかどうかが判断の基準となります。
判断の基準はデータの中身ではありません。 提供する側の事業者が取り扱うことになっているかどうかです。取り扱わないことになっている場合は、提供したことにならないので本人の同意は要らず、委託にも当たらないので法第二十五条の監督義務も生じない、と続きます。
では「取り扱わないこととなっている場合」とは何か。同じQ&Aの末尾に書かれています。
> 契約条項によって当該外部事業者がサーバに保存された個人データを取り扱わない旨が定められており、適切にアクセス制御を行っている場合等が考えられます。
契約条項とアクセス制御です。 つまり、あるサービスがどちら側なのかは、条文を読んでも分かりません。そのサービスの利用規約と契約書を読むまで決まらない。 議事録を誰が書くかを決めるより先に確かめるべきなのは、ここだと思っています。
そして正直に書いておくと、要約を生成するサービスが「取り扱わない」側に当たるのかは、この記事では確かめられませんでした。 Q&Aは保存の場面を例に説明していて、中身を処理して文章を作る場合をどう評価するかは書かれていません。数字も基準も持っていないので、断定しません。
監督義務が無くても、自分の安全管理措置は残る
「提供に当たらないなら、相手を監督しなくていい」で話が終わるかというと、終わりません。Q7-54が、そこだけを切り出して答えています。
> クラウドサービスの利用が、法第27条の「提供」に該当しない場合、法第25条に基づく委託先の監督義務は課されませんが(Q7-53参照)、クラウドサービスを利用する事業者は、自ら果たすべき安全管理措置の一環として、適切な安全管理措置を講じる必要があります。
安全管理措置は法第二十三条です。「その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない」。
監督の義務が外れても、自分の義務は外れない。 外のサービスを使うと責任が移るわけではない、という読み方になります。
ちなみに委託に当たる場合は逆で、本人の同意は要らなくなります。第二十七条第五項第一号が「利用目的の達成に必要な範囲内において個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って当該個人データが提供される場合」を第三者から外しているからです。同意が要らない代わりに、第二十五条の監督が要る。 どちらに転んでも、やることは残ります。
漏れたときに届け出るのは、使っている側
もう1つ、Q&Aにはっきり書かれていることがあります。Q6-22です。
> クラウドサービス提供事業者が、個人データを取り扱わないこととなっている場合において、報告対象となる個人データの漏えい等が発生したときには、クラウドサービスを利用する事業者が報告義務を負います。
(個人情報保護委員会 Q6-22 令和5年12月更新)
報告するのは使っている側です。 サービス提供側に代行させることはできる、とも書かれていますが、義務を負っているのは使っている側だという構図は変わりません。
議事録の担当者を決める会議で、ここまで話すことはまずないと思います。ただ、何かあったときに名前が出るのは、書いた人ではなく使っている会社です。
決める順番
条文とQ&Aから言えるのは、順番の話です。
- 先に決めるのは「どこを通るか」。 商談の音声と文字起こしが、どのサービスのどのサーバーを通るのかを、契約条項で確かめる
- その次に「誰が直すか」。 人の担当は、通り道が決まってから決めれば足りる
- 溜め方も一緒に決める。 引ける形に整理した時点で、当てはまる条文が変わりうる
- 使うサービスが決まったら、漏れたときの連絡の受け方を確かめる。 届け出るのは使っている側なので、気づけない形になっていると動けない
「誰が書くか」は、決めやすいから先に決められます。でも決めやすい順に決めると、いちばん戻しにくいところが最後に残ります。
Meetnect(meetnect.com)で作った議事録は、末尾に作成元とどのAIで要約したかの名前が入ります。ファイルを開けば、それを作ったのが何かが本文の末尾に書いてあります。 保存先は自社サーバー・会社のGoogleドライブ・端末へのダウンロードのいずれかで、どれに落とすかは使う側が選びます。半年後に「これは誰が書いたのか」を思い出すのは無理なので、ファイル自身に書かせています。