商談の値引きと二重価格表示|口頭で出した比較前価格も対象になる
2026年10月12日

オンライン商談の終盤で「通常は30万円ですが、今回は20万円で」と口にする。この30万円のほうも、景品表示法の「表示」に入ります。法律が指定している表示の中に、口頭と電話が名指しで書かれているからです。
この記事で分かるのは3つです。口で言った比較前の価格がなぜ表示に当たるのか。消費者庁が「交渉の出発点なら問題ない」と答えている形はどれか。そして条文が「一般消費者」と書いていることで、どこに線が引かれているか。引いたのは条文と消費者庁のQ&Aだけで、私たちは弁護士ではありません。自社の運用は専門家に確かめてください。
上位が答えているのは、お店の値札の話
「商談 値引き 二重価格」で検索すると、上位10件は法律事務所と広告審査の解説記事で埋まります。中身はおおむね同じで、二重価格表示とは何か、8週間ルールとは何か、違反事例はこれ、という並びです。
どれも正確です。ただ全件が値札・チラシ・ECサイトの価格表記を前提にしています。商談の席で口に出した価格がその枠に入るのかどうかは、10件のどこにも書かれていません。入り口から外れているので、読んでも自分の場面に当てはめられません。
告示は「口頭」と「電話」を名指ししている
景品表示法の「表示」は、条文の中だけでは決まりません。第2条第4項は、顧客を誘引するための手段として取引条件などについて行う「広告その他の表示」であって、内閣総理大臣が指定するものをいうとしています。
指定しているのは昭和37年公正取引委員会告示第3号です。その中身を、消費者庁が自分のQ&Aに原文で載せています。該当するのは2つ目と5つ目です。
> 見本、チラシ、パンフレット、説明書面その他これらに類似するものによる広告その他の表示(ダイレクトメール、ファクシミリ等によるものを含む。)及び口頭による広告その他の表示(電話によるものを含む。)
> 情報処理の用に供する機器による広告その他の表示(インターネット、パソコン通信等によるものを含む。)
(表示に関するQ&A Q1・消費者庁)
「口頭による広告その他の表示」に、わざわざ電話が足されています。 紙も画面も介さず、声だけで伝えたものを指定に入れる意図がここに出ています。オンライン商談で口にした価格は、この2つ目に当たります。画面に資料を映して見せた価格なら、5つ目の「情報処理の用に供する機器」の側で読めます。
つまり、値札を出していないから対象外、という切り方はできません。
「交渉の出発点」なら、不当表示にはならない
では、値引き交渉そのものが危ういのか。ここは消費者庁が答えています。値引き交渉に応じる前提で価格を示す場合について、こうあります。
> 「価格は係員に御相談ください」等の価格交渉に応じる旨の文言を伴う販売価格の表示は、記載されている販売価格が来店者との価格交渉の出発点を示す価格と認められますところ、基本的には、当該価格よりも安い価格で販売されることは、来店者も認識していると考えられます。したがって、そのような形で実際に価格交渉が行われるのであれば、当該文書を付した販売価格の表示を行うこと自体が不当表示に該当するおそれはありません。
(同Q&A Q23)
交渉で下がる前提の価格を先に置くこと自体は、問題にされていません。 商談で定価を言ってから相談に入る運びは、この形です。
危ないのは次のQです。高い価格と安い価格の両方に「ご相談ください」を付けて並べた場合、消費者庁はこう切ります。
> 実際の価格交渉は、低い販売価格(××円)の方を出発点に行われるのが通常であると考えられ、この場合、比較対照価格である「○○円」は、価格交渉の出発点としての意味のない価格となります。このような「○○円」という価格を比較対照価格として表示することは、価格交渉において提示される価格の値引きの程度について、実際には「××円」からの値引きであるものをことさら大幅に値引きされると一般消費者に誤認されることとなり、不当表示に該当します。
(同Q&A Q24)
線はここです。交渉が実際にどちらの数字から始まるか。 高いほうの数字が交渉に一度も使われないなら、その数字は比較対照価格として置かれているだけになります。商談に置き換えると、どの案件でも必ず2割引から話し始めるのに、毎回「通常は30万円です」と先に言うのが、この形に近づきます。
自店の旧価格を出すなら、8週間・2週間・2週間

比較前の価格として「以前はこの値段でした」を使うときの目安も、同じQ&Aに数字で出ています。自店の旧価格を比較対照価格にする場合、それが「最近相当期間にわたって販売されていた価格」といえるかで分かれます。
> 一般的には、1二重価格表示を行う時点からさかのぼった8週間において、当該価格で販売されていた期間が、当該商品が販売されていた期間の過半を占め、2当該価格での販売期間が通算で2週間以上であり、3当該価格で販売された最後の日から2週間経過していなければ、当該価格は「最近相当期間にわたって販売していた価格」とみなされ、「当店通常価格」等と称して比較対照価格とすることができます。
(同Q&A Q21)
8週間のうち過半、通算2週間以上、最後の日から2週間以内。 3つとも満たしているかで見ます。満たしていない価格を使うなら、いつの時点でどれだけの期間の価格なのかを正確に添える必要があるとされています。
ここで商談に固有の難しさが出ます。値札と違って、口で言った価格は記録に残りにくいからです。「通常30万円」が実際に何週間その値段だったのかを、あとから示せる形にしているかどうか。これは法律の問題ではなく、記録の問題です。
条文は「一般消費者」と書いてある
もう1つ、上位10件がほとんど触れていない線があります。第5条の第2号、価格に関する不当表示の条文です。
> 商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
(強調は引用者)
誤認の相手として書かれているのは「一般消費者」です。 第1号の優良誤認も同じで、一般消費者に対し、という書き方になっています。
ただし、誰が一般消費者に当たるのかを定義した条文は、この法律の中にありません。第2条の定義は事業者・事業者団体・景品類・表示の4つだけです。相手が法人だから当たらない、と条文だけで言い切れる形にはなっていません。
「知らなかった」は、条文の側で閉じられている
最後に、当たったときに何が起きるかです。消費者庁は、表示内容の決定に関与した事業者が規制の対象になるとしたうえで、こう書いています。
> この場合において、当該表示が景品表示法第5条第1項に規定する不当な表示であることについて、当該表示の決定に関与した者に故意又は過失があることは要しません。
(同Q&A Q2)
金銭のほうは条文です。第8条第1項は、課徴金対象行為に係る商品・役務の売上額に「百分の三を乗じて得た額」を課徴金として命じなければならないとしています。ただし表示が該当することを知らず、知らないことにつき相当の注意を怠った者でないと認められるときや、額が150万円未満のときは命じることができないと続きます。対象期間は、行為をやめた日などから数えて最長3年です。
第48条には罰金があり、価格その他の取引条件について著しく有利であると一般消費者を誤認させるような表示をしたときは「百万円以下の罰金に処する」とされています。
確かめられなかったこと
- Q23とQ24で消費者庁が挙げているのは、店頭のプライスカードの例です。商談の席で口頭で出した価格を名指しで扱った設問は見つけられませんでした。口頭が指定に入っていることと、この2つの考え方を組み合わせて読んでいます
- 画面共有で映した価格が「情報処理の用に供する機器による広告その他の表示」に当たるかどうか。告示の文言はインターネットとパソコン通信を挙げていますが、画面共有を名指しした公式の記述は見つけていません
- 8週間の目安の出典は、消費者庁が参照先として「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(平成12年6月30日公正取引委員会)第4の2(1)ア(ウ)を挙げています。この本体はPDFでしか公開されていないため、読んだのはQ&A(HTML)に載っている文言までです
- 相手が事業者だけの取引に第5条が及ぶ範囲。条文の「一般消費者」という文言から読めるところまでにとどめています
Meetnect(meetnect.com)の料金は、1人あたり月2,500円(税別)の1本です。公開しているページ(public/index.html)を検索すると、「通常価格」「定価」「希望小売」「割引」「キャンペーン」「期間限定」「今だけ」はいずれも0件でした。意図して比較前価格を外したというより、置く理由が無かったというのが正確です。金額そのものもコードに書かず、Stripeの価格IDを環境変数で持つ形にしています(src/worker.js:602)。価格の出し方を1本に保つほど、商談で何と言ったかを後から照らす手間は減ります。