web会議の議事録の開示を求められたときに、条文が決めていること
2026年10月14日

商談のあとで、相手から「あの日の議事録を見せてほしい」「文字起こしをそのまま送ってほしい」と言われる。検索しても、出てくるのは議事録の書き方か、株主総会・取締役会の議事録の閲覧請求でした。商談の相手が自分の発言の記録を求めてきたときの話は、どのページにもありませんでした。この記事は、個人情報保護法の条文と個人情報保護委員会のガイドラインを引いて、渡す形を誰が決めるのか、断れるのはどういう場合か、いつまでに答えるのかを確かめたものです。出典はすべて本文に置きます。法律相談ではなく、条文から読める範囲の整理です。
上位は「書き方」と「株主総会」に分かれていました
「web会議 議事録 開示 求められた 顧客」で検索して出てきた9件は、きれいに2つに割れていました。半分がweb会議の議事録の書き方・テンプレート・おすすめツールの記事。もう半分が株主総会や取締役会の議事録の閲覧謄写請求、つまり会社法の話です。マンション管理組合の総会議事録まで出てきました。
どちらも、商談相手からの求めには当たりません。会社法の閲覧請求は株主や取締役のための制度です。商談の相手が持っているのは別の筋の請求で、根拠になるのは個人情報保護法のほうです。ここが空いていました。
まず分かれ目になるのは「検索できる形で持っているか」
開示の請求が働く相手は、保有個人データです。議事録や文字起こしがそこに入るかどうかが、最初の分かれ目になります。
その手前にあるのが、個人情報データベース等という言葉です。
> この章及び第8章において「個人情報データベース等」とは、個人情報を含む情報の集合物であって、次に掲げるもの(利用方法からみて個人の権利利益を害するおそれが少ないものとして政令で定めるものを除く。)をいう。 > (1)特定の個人情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの
ガイドライン(通則編)が並べている事例のうち、議事録にいちばん近いのはこれです。
> 事例2)インターネットサービスにおいて、ユーザーが利用したサービスに係るログ情報がユーザーIDによって整理され保管されている電子ファイル(ユーザーIDと個人情報を容易に照合することができる場合)
該当しない事例として挙がっているのは、分類されていない状態のものです。「アンケートの戻りはがきが、氏名、住所等により分類整理されていない状態である場合」「他人には容易に検索できない独自の分類方法により名刺を分類した状態である場合」(ガイドライン(通則編) 2-4)。
読むと、気づくことがあります。議事録を探しやすく整理してあるほど、開示を求められる側に入っていきます。 相手の社名と担当者名で検索できるようにしてある、商談ごとに文字起こしが一覧で並んでいる、録画に参加者の名前が付いている。どれも業務のために入れた仕組みですが、条文の側から見ると「体系的に構成したもの」そのものです。会議のたびに手元に置いて散らばっているだけのメモより、きちんと管理されたツールのほうが請求の対象になりやすい。この向きは、開示の話をするときにほとんど語られていません。
渡す形を選ぶのは、こちらではなく相手です
ここが上位に1件も書かれていなかった点です。第三十三条の第1項は、こう始まります。
> 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
第2項が、受けた側の義務です。
> 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、同項の規定により当該本人が請求した方法(当該方法による開示に多額の費用を要する場合その他の当該方法による開示が困難である場合にあっては、書面の交付による方法)により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。
「本人が請求した方法」です。 方法の中身は規則第30条で、電磁的記録の提供、書面の交付、そのほか事業者が定める方法とされています(個人情報の保護に関する法律 第三十三条)。ガイドラインが挙げている電磁的記録の提供の事例は3つで、媒体に保存して郵送する、電子メールに添付する、会員専用サイト上でダウンロードしてもらう。「事業者が定める方法」の事例には「個人情報取扱事業者が指定した場所における音声データの視聴」が入っています。
つまり、「要約を紙で送ります」でこちらが決めてよいわけではありません。相手がデータそのものを指定したら、原則はそれに合わせます。ただし、方法の指定が特にないときの扱いも書かれています。
> 開示の請求を行った者から開示の方法について特に指定がなく、個人情報取扱事業者が提示した方法に対して異議を述べなかった場合は、当該個人情報取扱事業者が提示した方法で開示することができる
先にこちらから方法を示すこと自体は認められている、という読み方になります。
「書面で出します」に逃げられる場合は狭いです
第2項のかっこの中が、書面に切り替えられる場合です。ガイドラインが付けている事例は2つだけでした。大規模なシステム改修が必要になる場合と、書面で帳簿等を管理している小規模事業者が電磁的記録の提供に対応できない場合(通則編 3-8-2)。
録画や文字起こしをクラウドに置いて普段から画面で見ているなら、どちらにも当たりません。ファイルがそこにある状態で「紙でお送りします」は、条文の形から外れます。
逆向きの事例も置かれていました。業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合の3つ目です。
> 事例3)電磁的記録の提供にふさわしい音声・動画ファイル等のデータを、あえて書面で請求することにより、業務上著しい支障を及ぼすおそれがある場合
録音を全部文字に起こして紙で出せ、という請求には、こちら側から断る足場がある。音声と動画が名指しで書かれているのは、この事例だけです。

断れるのは3つの場合。断るときは通知が要ります
第2項のただし書で、開示しないことができる場合が3つ挙がっています。本人または第三者の生命・身体・財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、他の法令に違反することとなる場合です。
2つ目について、ガイドラインがはっきり線を引いています。
> 「著しい支障を及ぼすおそれ」に該当する場合とは、個人情報取扱事業者の業務の実施に単なる支障ではなく、より重い支障を及ぼすおそれが存在するような例外的なときに限定され、単に開示すべき保有個人データの量が多いという理由のみでは、一般には、これに該当しない
量が多いは理由になりません。 1年分の商談記録を探すのが大変、では足りないということです。
そして断ると決めたときに動くのが第3項です。
> 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について開示しない旨の決定をしたとき、当該保有個人データが存在しないとき、又は同項の規定により本人が請求した方法による開示が困難であるときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
出さないと決めたときも、無いときも、遅滞なく通知です。 黙っているという選択肢が条文に無い形は、削除を求められたときと同じでした。そちらは商談の録画を削除してほしいと言われたらに分けて書いています。加えて第三十六条が、措置をとらない旨を通知するときは理由を説明するよう努めなければならないとしています。こちらは努力義務です。
手数料は取れますが、額を先に置いておく必要があります
第三十八条は、開示の請求を受けたときに手数料を徴収できるとしています。第2項で「実費を勘案して合理的であると認められる範囲内」という縛りが付きます(第三十八条)。
ただし順番があります。ガイドラインは、額を定めた場合には本人の知り得る状態に置いておかなければならないと書いています(通則編 3-8-8)。請求が来てから金額を作って提示する形ではなく、先に決めて出しておくものです。請求の受け付け方そのものを先に決めておけることは、削除を求められたときの記事で触れています。
期限は日数で書かれていません。ただし2週間は出てきます
条文の言葉は「遅滞なく」だけです。委員会のQ&Aが、検索や集約に手間がかかる場合について答えています。
> 請求対象となるデータを検索・集約する等の一定の作業を要する場合には、当該作業を行うために通常必要と考えられる期間も考慮した上で、合理的な期間内に開示を行えば、「遅滞なく」開示したこととなると考えられます
(Q9-12)
一方で、はっきりした日数が1つだけあります。第三十九条です。本人は開示の請求に係る訴えを起こす前にあらかじめ請求を行い、その到達した日から2週間を経過した後でなければ訴えを起こせない。裏返すと、2週間放置した時点で相手の側は次の段を使えるようになります。日数の目安はここから逆算することになります。
なお、こちらが自動で配る文字起こしの宛先がどう決まるかは別の話で、web会議の文字起こしは参加者全員に届くのかに書いています。何年残すかは商談の議事録は何年残すのかです。
Meetnectの場合
Meetnectでは、議事録と文字起こしがどの商談のものかを後から辿れるようにしています。この記事を書いていていちばん引っかかったのは、その辿りやすさが同時に「請求の対象になりやすさ」でもあるという点でした。探せる形にしておく利点は変わりませんが、探せるなら出せるはずだという話にもなります。頼まれてから慌てないために、どの形で渡すかと誰が答えるかを先に決めておくほうが早い、というのが今回の整理です。