オンライン商談に向いている商材は、有形か無形かでは決まらない
2026年9月25日

オンライン商談に切り替えるとき、自分が扱っているものが向いているのか気になります。検索すると、答えはだいたい同じ形で返ってきます。無形商材は向いている、有形商材は触ってもらえないので向かない。
この記事は、その分け方では拾えないものがあるという話です。読むと、商材によっては契約までの手続きが法令で決まっていること、オンラインで完結させたときにその手続きがどう変わるのか(あるいは条文からは決まらないのか)が分かります。条文と公式の資料は出典を全部置きました。
先に書いておきます。私たちは弁護士ではありません。 ここに書くのは条文と公式資料に書いてあることと、それでも決まらなかったことの区別だけです。個別の判断は専門家に確かめてください。
上位が答えているのは「伝わるかどうか」
まず、検索して出てくる説明を短く確認します。上位10件はおおむねこう言っています。
- 無形のサービスや情報を扱う商談は、条件のすり合わせが中心なのでオンラインで進めやすい
- 有形の商品は、手に取ってもらえない・現場を見られないので不利になる
- だから使い分ける。序盤はオンライン、決めるところは対面
これは間違っていません。ただし全部が「伝わるかどうか」の話です。 10件を開いてみて、契約そのものの手続きに触れた記事は1本もありませんでした。出典が示されている記事もありませんでした。
伝わるかどうかは、やってみれば分かります。資料の見せ方を変えたり、サンプルを先に送ったりすれば済むこともあります(資料を事前に送るかに書きました)。困るのはそこではなく、伝わったあとに、そのまま申し込みを受けていいのかどうかです。
法律は、商材を名指しで分けている

有形か無形かという線とは別に、法律は商材の名前を挙げて線を引いています。
特定商取引法には「特定継続的役務提供」という区分があります。消費者庁の特定商取引法ガイドによると、定義は「長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引のこと」で、対象は7つです。
| 役務 | 期間 | 金額 |
|---|---|---|
| エステティック | 1月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 美容医療 | 1月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 語学教室 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 家庭教師 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 学習塾 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| パソコン教室 | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
| 結婚相手紹介サービス | 2月を超えるもの | 5万円を超えるもの |
7つとも無形です。オンラインで説明するぶんには何の障害もありません。それでも、期間と金額の両方を超えると、書面を受け取った日から8日以内のクーリング・オフが付きます(同ページ)。
ここで分かるのは、線が「見せられるか」とはまったく別のところに引かれているということです。同じ語学教室でも、1か月以内・5万円以下なら区分の外に出ます。期間と金額という、商談のやり方とは関係のない条件で決まります。
オンライン商談は、条文のどこにも名前が書かれていない
では、そのオンライン商談で申し込みを受けたとき、どの区分に入るのか。ここを条文で追いました。
特定商取引法2条をe-Gov の法令APIで読むと、3つの定義が並んでいます。
- 訪問販売(1項)…「営業所等以外の場所において、売買契約の申込みを受け、若しくは売買契約を締結して行う」もの
- 通信販売(2項)…「郵便その他の主務省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申込みを受けて行う」もので、電話勧誘販売に当たらないもの
- 電話勧誘販売(3項)…電話で勧誘して、「郵便等により」申込みを受けるもの
3つとも、ビデオ通話という言葉は出てきません。 出てくるのは「郵便等」で、その中身は施行規則に投げられています。施行規則2条を読むと、2号がこうなっています。
> 電話機、ファクシミリ装置その他の通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法
パソコンやスマホで申し込みを受けることは、この2号に読めます。 つまりオンライン商談の場で申し込みを受けても、条文の用語では「郵便等により申込みを受けた」ことになりそうです。
そこから先が決まりません。同じ「郵便等」でも、通信販売なら法定のクーリング・オフはなく、消費者庁の通信販売のページにあるのは商品の引渡しから8日以内に消費者の送料負担で返品できる制度で、事業者が特約を表示していればその特約が優先します。電話勧誘販売なら8日のクーリング・オフが付きます(電話勧誘販売のページ)。付くか付かないかが変わります。
分かれ目は、勧誘のしかたのほうにありました。電話勧誘販売の定義は「消費者に電話をかけ、又は特定の方法により電話をかけさせ、その電話において行う勧誘によって」です。ビデオ通話での勧誘が「電話において行う勧誘」に当たるのかは、条文にも公式ガイドにも書かれていません。 私たちには、これを決める根拠がありません。
訪問販売の側にも同じ穴があります。消費者庁の訪問販売のページには、「電話や郵便、SNS等で販売目的を明示せずに消費者を呼び出したり」した結果として営業所で契約した場合も訪問販売に当たる、と書かれています。販売目的を告げずにオンライン商談へ呼び出した場合がどうなるかは、このページの文面からは読み取れませんでした。
相手が事業者なら外に出る。ただし線は画面からは見えない
ここまでは相手が消費者の場合の話です。訪問販売のページには、適用除外がはっきり書かれています。
> 営業のため、又は営業として締結するもの
事業者どうしの商談は、特定商取引法の外に出ます。だから多くの法人向け商材では、上の区分を気にせずに済みます。
問題は、その線が画面からは見えないことです。 オンライン商談は相手が入ってくる形なので、名刺も、会社の建物も、机の上も見えません。表示名は自己申告です(名刺交換をどうするかに書きました)。個人事業主か、副業でやっているのか、自宅で受けているのかは、こちらからは確かめられません。
対面より情報が少ない状態で、区分に関わる判断をしていることになります。 ここは商材の向き不向きではなく、確かめ方の話です。申込みの前に、契約の名義と用途を言葉で確認しておくのが現実的なところでした。
手続きが決まっている商材は、「できるか」より「条件」を読む
もう1つ、商材で決まっているものがあります。説明の手続き自体が法令で決まっている商材です。
不動産の取引には重要事項説明があり、これをオンラインで行うこと(IT重説)は国土交通省が本格運用しています。国土交通省のページには、宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方として条件が示されています。
> 宅地建物取引士及び重要事項の説明を受けようとする者が、図面等の書類及び説明の内容について十分に理解できる程度に映像を視認でき、かつ、双方が発する音声を十分に聞き取ることができるとともに、双方向でやりとりできる環境において実施していること
> 重要事項説明書及び添付書類を、重要事項の説明を受けようとする者にあらかじめ送付していること
読むと分かりますが、これはツールの機能名では書かれていません。 「十分に理解できる程度に映像を視認でき」「双方向でやりとりできる」という状態の指定です。だから、どのツールなら満たせると誰かが決めてくれるわけではなく、自分の環境で満たせているかを見ることになります。
書面の電子化についても、国交省の別のページにこうあります。
> 書面の電子化(重要事項説明書等の電磁的方法による提供)を行うためには、書面の電子化を受けることについて説明の相手方等へ意向確認を行い、承諾を得る必要があります。
承諾が先に必要という形です。詳しい実施マニュアルはPDFで公開されていますが、この記事を書いた環境では開けなかったので、中身は使っていません。 条件の全体は、そちらを直接確かめてください。
向いているかを判断する前に、確かめる3つ
以上を踏まえると、確かめる順番はこうなります。
1. 相手が消費者か、事業者か。 事業者どうしなら特定商取引法の区分の外です。消費者が相手なら、下の2つに進みます。
2. 自分の商材が名指しされていないか。 特定継続的役務提供の7つ、そして期間と金額の条件。ここに入るなら、オンラインかどうかとは無関係に手続きが増えます。
3. 説明の手続きが決まっていないか。 不動産のように、説明の方法まで定められている商材があります。その場合は「オンラインでできるか」ではなく「条件を満たせるか」を読みます。
3つのどれかに当たる商材は、オンラインに向いていないのではなく、順番が違うだけです。商談をオンラインでやってから、手続きの部分だけ別の形で踏む、という組み方ができます。逆に3つのどれにも当たらないなら、残るのは本当に「伝わるかどうか」だけになります。そこはやり方で動かせます。
契約の成立そのものについては、クロージングの言い方で民法522条を引いて書きました。合意をどう残すかは議事録を送るメールの文面、案内のメールが広告になる線はお礼メールと広告の線にあります。
Meetnectの商談ルームには、申し込みを受ける画面がありません。 ルームの中でできるのは、話す、資料を見せる、書く、記録を残すことで、注文フォームも電子署名の仕組みも入っていません(public/room.html を検索しても、申込・注文・署名にあたる部分は出てきません)。契約はツールの外で起きるので、上に書いた区分の判断をMeetnectが代わりにすることはありません。残るのは記録のほうです。ちなみにMeetnect自体はオンラインで申し込めるサービスなので、特定商取引法に基づく表記を置いています(制定日2026年8月19日)。自分が売る側に回ると、同じ話が返ってきます。