商談でデメリットを説明しないと何が起きるか|不利益事実の不告知
2026年10月13日

言わなかったことが、あとから契約を取り消される理由になる。この話は商談の場でときどき出ます。ただ条文を読むと、黙っていたことだけでは動きません。 動くのは、先に良いことを言っていて、その言い方が「不都合はない」と思わせたときです。
この記事は、消費者契約法4条2項が動く条件を原文で確かめたものです。あわせて、上位の記事がどこまでを書いて、どこから先を書いていないのかを並べます。
先に断っておくと、私たちは弁護士ではありません。ここに書くのは条文と所管官庁の公式ページに書いてあることだけです。個別の判断は弁護士に確かめてください。
上位は2つに割れていて、どちらも途中で止まる
「商談 デメリット 説明しない 不利益事実」で検索すると、上位は2つの層に割れます。
ひとつは営業の技術の記事です。デメリットを正直に伝えると安心感が出て信頼につながる、聞かれていないことまで足すと話が散る、という内容で、法律には触れません。もうひとつは不動産の取引を題材にした法律解説です。「眺望良好」と言って建設計画を伏せた、という形の例が並びます。
後者は条文の要件を並べているので、こちらは本文を実際に当たりました。上位1件目(三井住友トラスト不動産)は、先に利益になる話をしたことが条件に入るところまで書いています。ただしそこから先の3つ、告げようとして拒まれたときの扱い・重要事項の範囲・「重大な過失」 には触れていません。説明義務違反を扱った記事(マネーフォワード)も、努力義務までは書いていますが、同じ3つは出てきませんでした。
この3つが、条文を開くと最初に目に入る部分です。
条文は「言わなかったこと」だけでは動かない
該当するのは消費者契約法4条の第2項です。長いので、そのまま引きます。
> 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を故意又は重大な過失によって告げなかったことにより、当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
(消費者契約法第4条第2項)
読むべきは前段の「利益となる旨を告げ、かつ」です。 条文が見ているのは不告知そのものではなく、告知と不告知の組み合わせです。良いことも言わず、悪いことも言わず、ただ黙っていた商談は、この項の形に入りません。
並べ直すと、要件は5つです。重要事項かそれに関連する事項について利益になる旨を告げたこと。その重要事項について不利益となる事実を告げなかったこと。告げなかったのが故意または重大な過失であること。それによって消費者が「その事実は無い」と誤認したこと。その誤認によって申込みか承諾をしたこと。
取消しが何を意味するか、言ったことと決めたことがどうつながる必要があるかは、同じ4条の第1項について商談で効果を言い切るとどうなるかに書いたので、ここでは繰り返しません。
括弧が結んでいるのは、言ったことと言わなかったこと
いちばん効いているのは、不利益となる事実に付いた括弧です。
> (当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)
「当該告知により」で始まっています。 つまり対象になる不利益な事実は何でもよいわけではなく、こちらが言った良い話のせいで「それは無いのだろう」と受け取られるものに限られます。言ったこととのつながりが切れている不都合は、この括弧の外です。
オンラインの商談に置き換えると、画面に出した1枚と、同じ1枚に書かなかったことの関係になります。導入後の効果を1枚で見せて、その効果が出る前提条件を同じ場で出さなかった場合、条件は「無い」ものとして受け取られます。括弧が見ているのはこの関係です。
主観の要件は、条文に書いてある
告げなかったことには、心の状態の条件が付いています。
> 故意又は重大な過失によって告げなかった
「重大な過失」が入っています。 知らなかったという説明が、そのまま外側に出る形にはなっていません。
これは消費者庁の側も同じ言葉で整理しています。平成30年法律第54号による改正の一問一答の目次に、質問の見出しがこう並んでいます。
> <不利益事実の不告知> > 問6 事業者の主観的要件として、故意のほかに「重大な過失」を追加するのはなぜですか。 > 問7 事業者に「重大な過失」があるとされるのはどのような場合ですか。
(消費者契約法の一部を改正する法律(平成30年法律第54号)・消費者庁)
官庁自身が主観的要件と呼び、そこに重大な過失を追加したと書いています。見出しだけで、この2つが分かります。答えのほうはPDFでしか公開されておらず、原文を読めませんでした。だから「どのような場合に重大な過失があるとされるか」は、この記事では書きません。
「重要事項」の範囲が、1項1号と2項で違う
重要事項という言葉は、法律が自分で定義しています。ここに、上位の記事に出てこない括弧があります。
> 第一項第一号及び第二項の「重要事項」とは、消費者契約に係る次に掲げる事項(同項の場合にあっては、第三号に掲げるものを除く。)をいう。
(同条第5項)
そして第3号は、こう書かれています。
> 前二号に掲げるもののほか、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情
括弧の「同項」は、直前に挙がっている第二項です。 読むと、安全や危険を避けるために必要と判断される事情は、嘘を言った場合(第1項第1号)には重要事項に入り、言わなかった場合(第2項)には入らないことになります。言わなかったほうが対象が狭い、という向きです。
1号と2号のほうは、どちらも「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」で閉じています。内容と取引条件のうち、決めるかどうかに通常影響する範囲、ということです。
なお、不動産の重要事項説明は宅地建物取引業法の義務で、こことは別の法律の別の仕組みです(オンライン商談に向く商材で国土交通省の条件を確かめています)。同じ言葉が出てくるので混ざりやすい部分です。
言う側の義務は、努力義務として別に置かれている
では説明する義務そのものはどこにあるのか。4条の手前、3条にあります。
> 事業者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。
> 二 消費者契約の締結について勧誘をするに際しては、消費者の理解を深めるために、物品、権利、役務その他の消費者契約の目的となるものの性質に応じ、事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験を総合的に考慮した上で、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容についての必要な情報を提供すること。
(消費者契約法第3条第1項第2号)
「努めなければならない」です。 情報を提供する側の義務はここで柔らかく置かれていて、契約の効力に跳ね返る硬い条文は4条のほうにあります。この2つは別の高さにあります。
目を引くのは「事業者が知ることができた個々の消費者の年齢、心身の状態、知識及び経験」という書き方です。相手ひとりずつを見て変える、という形になっています。画面越しだと、相手の様子は画面に映る範囲しか分かりません。ここは条文ではなく、こちらの実感です。
告げようとして拒まれたときは外れる
最後がただし書きです。
> ただし、当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りでない。
商談でこれが起きる形は決まっています。制約の説明に入ったところで「大丈夫です、そこは分かってます」と返り、話が次に進む。こちらが止めたのではなく、止められた場面です。条文は、この形を取消しの外に置いています。

ただし、どの程度なら「拒んだ」に当たるのかは条文に書かれていません。 言葉で断られたのか、話題を変えられたのか、黙っていたのかで、同じに扱えるとは読めません。線は条文からは出てきません。
残るのは記録です。何を言ったかは文字で残りますが、言わなかったことは、どこにも跡を残しません。ただし書きに当たる場面も同じで、こちらが告げようとしたところまでは残り、相手がそれを拒んだという形で残るかは、そのときの言葉づかいによります。
確かめられなかったこと
- 一問一答の答え。問6・問7はPDFでしか公開されておらず、原文を読めませんでした。だから「重大な過失」に当たる具体的な場合は書いていません
- 第4条第5項の括弧の「同項」が第二項を指すという読み。直前に挙がっている項から読めるところまでで、公式の解説で確かめたものではありません。消費者庁の逐条解説もPDFのみです
- 画面共有で映した注記が「告げた」に当たるか。画面を名指しした公式の記述は見つけていません
- 「拒んだ」の程度。条文に書かれていません
- 判例での扱い。判決の原文はPDFでしか取れないため、1本も引いていません
Meetnect(meetnect.com)はブラウザだけで動くオンライン商談ツールです。この条文が見ているのは、言ったことと言わなかったことの対でした。ところが商談のあとに残るのは、言ったことだけです。言わなかったことは、議事録にも文字起こしにも欄がありません。できるのは、必ず口にすると決めたことを、口にしたかどうか記録の側から見える形にしておくことくらいです。会社として毎回拾う観点を議事録を作る側に持たせる作りは商談のヒアリングの抜け漏れに、その場で交わした言葉が後からどう扱われるかは商談の口約束は取り消せるかに書きました。