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商談の録画を社内研修の教材に使う

2026年10月11日

左の机に閉じた黒い薄型ケースが置かれ、その上に金色の鍵が1本のっている。オレンジ色の矢印が右へ渡り、その先では空席のパイプ椅子が白い大画面に向かって並び、手前の床にもう1本の鍵が落ちている
左の机に閉じた黒い薄型ケースが置かれ、その上に金色の鍵が1本のっている。オレンジ色の矢印が右へ渡り、その先では空席のパイプ椅子が白い大画面に向かって並び、手前の床にもう1本の鍵が落ちている

商談の録画が溜まってくると、新人の教材に使いたくなります。調べると、録画の許可の取り方と、「蓄積した録画は人材育成に活用できます」という話が出てきます。どちらも間違っていません。ただ、許可を取った時点と、教材に回す時点では、見る条文が変わります。

この記事では、著作権法の条文を5本(30条1項・35条1項・49条1項1号・22条の2・20条1項)当てて、会社の研修がどの条文の中に入らないのかを確かめます。そのあとで、自分たちの商談ツールが録画の編集をどう扱っているかをコードから書きます。

先に断っておくと、私たちは弁護士ではありません。ここに書くのは条文に書いてあることだけで、個別の判断は専門家に確かめてください。


この記事の内容
  1. 上位は「録ってよいか」で終わっている
  2. 私的使用の枠に、会社は入っていない
  3. 「教育目的なら」の条文は、営利の会社を自分で外している
  4. 目的が変われば、もう一度複製したことになる
  5. 会議室で映すのも「上映」で、人格権は別に残る
  6. うちは、録画を切る機能を持っていない
  7. 確かめられなかったこと

上位は「録ってよいか」で終わっている

「商談の録画 社内研修 使う」で検索すると、上位に並ぶのは録画の進め方と許可の取り方の記事です。相手に伝える3点(目的・用途・管理方法)を挙げるもの、無断録音が違法になるかを扱うもの、研修で市販のDVDや書籍を使うときの許諾の話。研修に触れているページでも、「振り返りで積み重ねたデータは社内ノウハウとして蓄積され、人材育成にも活用できます」のように、活用できるという一文で終わります(商談録画の方法、商談録音の許可取得から振り返り改善まで)。

書いてあることに誤りはありません。許可は取るべきですし、録画が教材になるのも事実です。

ただ、録ったものを研修に回すときに何が変わるかを書いたページは、上位10件に1つもありませんでした。 録画の許可の切り出し方そのものは商談を録画したいとき、相手にどう切り出すかに、録画に残った相手の資料が誰の著作物になるかは商談の録画に相手の資料が入るに書きました。この記事はその次の話です。

私的使用の枠に、会社は入っていない

複製の例外でいちばん広いのは30条1項の私的使用です。条文は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」と書いていて、全文は画面共有で動画を流すときの著作権で引きました。ここでは繰り返しません。

読むときに大事なのは、枠が人数ではなく関係で書かれていることです。家庭内と、それに準ずる限られた範囲。営業部の3人は、人数だけ見れば家族より少ないこともありますが、この書き方の中には見当たりません。

文化庁も資料の中で同じ整理をしています。ただし今回は公式PDFの原文をこの環境で開けませんでした(後述します)。だから以下は条文の文言だけで書きます。

「教育目的なら」の条文は、営利の会社を自分で外している

研修と聞くと35条を思い浮かべるかもしれません。学校その他の教育機関における複製等です。条文の冒頭がこうなっています。

> 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(中略)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。

(著作権法35条1項)

括弧書きが最初に立っています。営利を目的として設置されているものを除く。 会社はここで外れます。続きも「教育を担任する者及び授業を受ける者」「その授業の過程における」なので、社内研修を教育と呼んだとしても、条文が想定している箱には入りません。

ここは先に知っておくと早い部分です。「教育目的だから大丈夫」という言い方は、35条を指しているつもりでも、35条の手前で止まっています。なお2項は公衆送信に補償金を求める規定で、支払う相手として挙がっているのも「前項の教育機関を設置する者」です。

目的が変われば、もう一度複製したことになる

今回いちばん効く条文がこれです。49条1項の柱書きは一文だけです。

> 次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つたものとみなす。

そして1号が、30条1項をはじめとする複製の例外を並べたうえで、こう続きます。

> 第三十条第一項(中略)に定める目的以外の目的のために、これらの規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(中略)を頒布し、又は当該複製物によつて当該著作物の公衆への提示(送信可能化を含む。以下同じ。)を行つた者

(著作権法49条。21条は複製権の条文です)

この条文が前提にしている見方が、実務にそのまま効きます。著作権法は、複製が許されるかどうかを「何のために作ったか」で見ます。 だから目的が変わったときにどうなるかを、条文の側が先に書いています。目的の外に出して配ったり、それで見せたりしたら、その時点で複製したものとみなす。

1つ注意点があります。49条が対象にしているのは「これらの規定の適用を受けて作成された」複製物、つまり30条1項などに乗って作った複製物です。商談の録画は業務なので、そもそも30条1項の枠に入っていません。持ち越せる例外が最初から無いので、研修に回す時点の行為を、そのまま21条の複製として見ることになります。 49条から読み取れるのは、著作権法が目的の変更をどう扱うかという考え方です。

「あのとき相手から許可をもらった」が効く範囲も、ここで決まります。もらったのが録画の許可なら、それは録画についての許可です。

会議室で映すのも「上映」で、人格権は別に残る

配る以外に、研修で全員に見せる形があります。22条の2は一文です。

> 著作者は、その著作物を公に上映する権利を専有する。

(同・22条の2)

「公に」が何人からなのかは、条文に書かれていません。非営利・無料なら上映できる38条1項の例外もありますが、どちらも画面共有で動画を流すときの著作権の持ち分なので、そちらに任せます。会社の研修は営利の側なので、38条1項はそもそも使えません。

もう1つ、教材を作るときにほぼ必ず起きることがあります。必要なところだけ切り出す。20条1項はこうです。

> 著作者は、その著作物及びその題号の同一性を保持する権利を有し、その意に反してこれらの変更、切除その他の改変を受けないものとする。

(同・20条)

「切除」という語が条文に入っています。そして50条が、こう書いています。「この款の規定は、著作者人格権に影響を及ぼすものと解釈してはならない」(同・50条)。複製や上映の例外を全部くぐれたとしても、人格権はそれとは別に残ります。 20条2項には改変が許される場合が4つ並んでいますが、学校教育の用語の変更・建築物の改築・プログラムの実行のための変更・やむを得ない改変で、研修教材の編集はそこに入っていません。

うちは、録画を切る機能を持っていない

ノートPCの画面から1本のフィルムの帯が途切れずに伸び、机の下の開いた引き出しの中へ巻かれて収まっている。机の上にはさみが閉じたまま使われずに置かれ、右側では紙の束から1枚だけが手でめくり上げられている
ノートPCの画面から1本のフィルムの帯が途切れずに伸び、机の下の開いた引き出しの中へ巻かれて収まっている。机の上にはさみが閉じたまま使われずに置かれ、右側では紙の束から1枚だけが手でめくり上げられている

自分たちの商談ツールは、録画を1本のまま扱います。録画中は MediaRecorder が受け取った断片を溜めておき、終わるときに1つの webm にまとめます(public/room.html:2334)。切る・つなぐ・頭出しする処理は、どこにも書いていません。 ffmpeg・MediaSource・SourceBuffer は public/ と src/ の全ファイルで0件です。ダッシュボードにも映像を再生する面はなく、<video> の要素が1つもありません(public/app.html に出てくる video は、一覧に並ぶアイコンの定義1か所だけです)。保存された録画の行に付いているのは「開く」のリンクで、再生は保存先のビューアに任せています。

編集を足さなかった理由は、相手の資料の記事に書いた判断と同じ形です。切り出す機能を付けると、相手の資料が映っている区間をどこで切るかを、うちが決めることになります。

ファイル名のほうは、知っておくと扱いが変わります。保存のときに出てくる既定の名前は「タグ_日付_商談のタイトル_時刻」です(public/room.html:2210-2216)。商談のタイトルには取引先名を入れる使い方になるので、既定のままだと、ファイル名だけで相手が分かります。 名前を書き換えられるのは保存の直前の1回だけで、そのあとは保存先で変える以外にありません。

議事録との差も、ここから出てきます。議事録は .txt(text/plain)で保存します(public/room.html:2425)。テキストなので、渡す前に一部の行を消せます。録画は webm が1本なので、同じことができません。社内に回すなら、録画よりも議事録のほうが、渡すものを選べる形です。 保存されたファイルが誰に見えるかは商談メモの社内共有の持ち分で、うちは共有相手を足す処理を持っていません。記録を会社側に残す作りそのものは営業の引き継ぎで商談の記録が残らないに書きました。

確かめられなかったこと


Meetnect(meetnect.com)は、ブラウザだけで動くオンライン商談ツールです。録画は1本の webm としてまとめ、議事録はテキストとして保存するところまでで、そのあと切り出したり教材の形に組み替えたりする機能は持っていません。できることを増やしていないかわりに、どの区間を残すかの判断を、うちが代わりに決めることもありません。

商談しながら、議事録ができています

Meetnect はブラウザだけで動くオンライン商談ツールです。相手は登録不要、URLを開くだけ。通話中に文字起こしが進み、終わった時点で「誰が何を言ったか」まで残った議事録ができています。7日間、カード登録なしで試せます。