商談の録画に相手の資料が入るとき、写り込みで済む線はどこにあるか
2026年10月10日

商談を録画していると、相手が画面共有した見積書や提案書が、そのまま動画ファイルの中に残ります。許可を取って録っているのだから問題ない——と思いたいところですが、許可をくれた相手と、その資料の権利を持っている人は、別人のことがあります。 そして「たまたま写り込んだものは使ってよい」という条文は、画面いっぱいに映った資料には届きません。条文と文化庁の記述で確かめたことを書きます。出典は本文に置きます。
上位が答えているのは「黙って録っていいか」まで
この困りごとで検索すると、出てくるのは録画の許可の取り方です。無断で録ること自体は違法ではない、ただし信頼の問題になる、だから冒頭で伝える——という話で、これは私たちも録画の許可の取り方に書きました。
ウェビナーや社内研修の資料をどう扱うかの解説も見つかります。そちらは不特定多数に向けて流す場面の話です。
どちらも、相手が出した資料が自分の手元のファイルに残ることには触れていません。 録画の許可は会話を録ることの許可で、資料を複製することの許可とは別物です。上位10件に、この2つを分けて書いた記事はありませんでした。
写り込みの条文は、録画だけの話ではない
「たまたま入ったものは許される」の根拠は著作権法30条の2です。条文の書き出しはこうなっています。
> 写真の撮影、録音、録画、放送その他これらと同様に事物の影像又は音を複製し、又は複製を伴うことなく伝達する行為(以下この項において「複製伝達行為」という。)
注目したいのは「又は複製を伴うことなく伝達する行為」です(e-Gov 法令検索・著作権法30条の2)。残さずに送っただけの行為も、この条文がまとめて扱っています。つまり画面共有で見せるだけの場合と、録画してファイルに残す場合が、同じ条文の中に並んでいます。
残すほうと送るほうが別々の条文になる話は画面共有と動画の著作権に書きましたが、写り込みの側は1つの条文で両方を見ています。条文を読む起点が、行為ごとに揃っていません。
効くのは「軽微な構成部分」のときだけ
同じ条文の括弧の中に、効く範囲が書いてあります。
> 当該著作物の占める割合、当該作成伝達物における当該著作物の再製の精度その他の要素に照らし当該作成伝達物において当該著作物が軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る
「軽微な構成部分となる場合における当該著作物に限る」。 占める割合と、どれだけ精密に写っているかで見ます。画面いっぱいに映った見積書は、割合の点でも精度の点でも、軽微な構成部分とは読めません。
文化庁は、認められない例を2つ挙げています。
> 本来の撮影対象として,ポスターや絵画を撮影した写真を,ブログに掲載する場合
> テレビドラマのセットとして,重要なシーンで視聴者に積極的に見せる意図をもって絵画を設置し,これをビデオ収録した映像を,放送やインターネット送信する場合
商談で相手が共有した資料は、本来見るつもりで出してもらったものです。2つ目の例の「積極的に見せる意図をもって」に、形としてそのまま当たります。写り込みの条文は、ここでは使えません。
一方で、同じ録画の中に写り込みとして読めるものも同時に入っています。相手の背後の壁に貼ってある掲示物、机に立てかけたカタログ、資料の端に小さく入った他社のロゴ。これらは「見せるつもりで出したもの」ではありません。同じ1本のファイルの中で、条文の当たり方が場所ごとに変わります。 背景に何が写るかという別の面はバーチャル背景で隠せる範囲に書きました。

割合の数字は、どこにも書かれていない
では画面の何割までなら軽微なのか。文化庁は言い切っています。
> 「軽微な構成部分」であるか否かは,著作物の種類等に照らし,個別の事案に応じて判断されるものであり,予め定量的な割合が決まっているものではありません
分離が困難かどうかの基準も、同じページに書かれています。
> ある著作物を創作する際に,創作時の状況に照らして,付随して対象となった他の著作物を除いて創作することが,社会通念上困難であると客観的に認められることをいいます
この2つを並べると、商談の録画での線引きが見えてきます。相手が共有した資料は、分離が困難ではありません。 共有をやめてもらえば消えるし、録画を止めておく手もあります。除いて録ることが難しくないものは、分離の困難性の側からも外れていきます。
壁の掲示物は逆です。相手の部屋の壁を動かすことはこちらにはできないので、除いて録るのは社会通念上困難なほうに寄ります。
営利かどうかは、扉の手前ではなく中で効く
条文の続きを読むと、営利の話が出てくる場所が独特です。
> 当該付随対象著作物の利用により利益を得る目的の有無、当該付随対象事物等の当該複製伝達対象事物等からの分離の困難性の程度、当該作成伝達物において当該付随対象著作物が果たす役割その他の要素に照らし正当な範囲内において
「利益を得る目的の有無」は、先に通す関門としてではなく、正当な範囲内かどうかを決める要素の1つとして並んでいます。 営利だから一律で駄目、とは書かれていません。
ここは38条1項と形が違います。あちらは非営利かつ無料の場合に限って上演・演奏・上映・口述を許す書き方で、営利の商談はその手前で外れます(画面共有と動画の著作権に書きました)。写り込みのほうは、営利であることが不利に働く要素ではあっても、それだけで閉まる扉ではありません。
ただし商談の録画では、その前の「軽微な構成部分」で既に止まっています。営利かどうかを考えるところまで進みません。
「どうぞ」と言った人が、権利者とは限らない
ここが実務でいちばん効きます。商談の冒頭で「録画してもよろしいですか」と聞いて、相手が「どうぞ」と答えた。この「どうぞ」は、相手の会社の資料を複製することの許諾になっているのか。
著作権法15条1項はこうなっています。
> 法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする
会社の名義で出す資料を職務として作った場合、著作者はその人ではなく会社になります。 目の前で「どうぞ」と言っている担当者は、会社の資料について自分で決められる立場かどうかが分かりません。社名の入った提案書なら、条文の形としては会社のものです。
さらに、相手の資料の中に第三者のものが混ざっていることがあります。調査会社のグラフ、素材サイトの写真、他社の製品画像。相手自身が権利を持っていない部分について、相手は許諾を出せません。 資料に混ざった書体の扱いが商談とどう関わるかは資料のフォントと商用利用に書きました。
著作権より先に当たる決まりがある
もう1つ、著作権の手前で引っかかるものがあります。相手の資料に書かれている数字や取引先の名前は、相手の会社の営業秘密かもしれません。
不正競争防止法2条6項の定義はこうです。
> この法律において「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう
3つの条件が並んでいます。秘密として管理されている、事業活動に有用、公然と知られていない。この定義に、創作性は出てきません。 著作物にならない価格表や取引条件の一覧でも、こちらには入りうるという意味です。
同条1項4号は、不正の手段で取得したり、そうして取得したものを使ったり開示したりする行為を挙げています。商談で見せてもらった資料は不正の手段で取ったものではないので、この号には当たりません。ただ、録画が社内で回り、要約が営業ノートに貼られ、別の商談で引き合いに出される——という道筋の途中で、秘密保持の約束のほうに先に触れます。社内で記録を回すときに何が起きるかは商談メモの社内共有に書きました。
うちの録画は、資料を画面いっぱいに描いている
自分たちのツールの中身を書きます。Meetnect の録画は、1280×720のキャンバスを1枚用意して、そこに映像を描いた絵を動画にしています(public/room.html:2042)。
描き方は、資料や画面が出ているかどうかで分かれます。出ているときは drawContain(ctx,pv,0,0,W,H) でキャンバスの全面に描き、相手の顔は232×139の小窓を右上に、自分を右下に置きます(2050〜2053行)。出ていないときは相手の映像を1人なら全面、2人以上なら2列に並べて描き、自分を276×166の小窓にします(2054〜2057行)。
ここから分かることが2つあります。
1つ目。資料が出ている間、録画の絵は資料が全面です。 面積の比で言えば、相手の顔が232×139で、資料が1280×720。軽微な構成部分の判断で出てくる「占める割合」は、資料の側が圧倒的に大きくなります。写り込みで読める余地は、この分岐の中にありません。
2つ目。相手の映像が全面になる分岐もあります。 相手が1人で資料を出していない場面では、相手の映像が1280×720いっぱいに描かれます。背後の壁の掲示物も、そのぶん大きく写ります。同じ録画の中で、写り込みとして軽微に収まるかどうかは、どの分岐で描かれた区間かによって変わります。
描く中身を選ぶ分岐は、この「資料が出ているか」「相手がいるか」の2つだけです(2049〜2059行)。映っているものが誰の著作物かを判定する処理は、1行も書いていません。 判定するなら、相手の画面に何が映っているかをこちらのツールが読むことになります。そこには踏み込まない作りにしました。
書き出す側の数字も置いておきます。1秒あたり25枚で取り出し(2064行)、映像800kbps・音声96kbps(2069行)です。条文が挙げている「再製の精度」はこの設定で決まりますが、この画質で資料の文字がどこまで読めるかは測っていないので、書きません。 2時間でファイルがどれくらいになるかは2時間の商談の録画に書きました。
文字起こしのほうは音声だけを拾う経路なので、画面に映った文字は入りません。これは画面共有で通知が見えた後に書いた通りです。
確かめられなかったこと
- 画面の何割までなら軽微なのか。 文化庁が「予め定量的な割合が決まっているものではありません」と書いている通り、数字はありません
- 800kbpsの録画で資料の文字がどこまで再現されるか。 測っていません
- 相手の担当者の「どうぞ」が、その会社の中でどこまでの決裁にあたるか。 会社ごとの契約や勤務規則によります。15条1項も「別段の定めがない限り」と書いています
- ここに書いたのは条文と文化庁の記述の文面です。個別の案件がどうなるかは、私たちには判断できません。 迷うなら弁護士に聞くのが早いです
商談の前に決めておく3つ
- 許可を取るときに、会話と資料を分けて言う。 「御社の資料が映った状態で残ります」と一言足すと、相手が社内に確かめる余地が生まれます。15条1項も「別段の定めがない限り」と書いていて、会社ごとに定めがある前提になっています
- 1本のファイルとして扱わず、何が映っていた区間かで分けて考える。 顔だけの区間と資料が全面の区間は、条文の当たり方が違います
- 資料そのものは、動画から取り出すのではなく相手に送ってもらう。 ファイルでもらえば、どこまで使っていいかを相手が決められます。動画から切り出すと、決めたのはこちらになります
Meetnectの場合
Meetnect はブラウザだけで動くオンライン商談ツールです。録画のファイルは押した人の端末で組み立てて、会社のドライブに置く作りにしてあります(録画の保存先)。資料を見せるほうは、資料を描いたキャンバスから映像を作って通話に流す経路で、相手の端末にファイルが落ちることはありません。ただし録画の絵をどう組むかは上に書いた通りで、出していい資料かどうかを判定する仕組みは入れていません。 決めるのは出す側と録る側です。